胸部食道切除後の消化管再建経路長に関する後方視的研究について
研究対象
2012年11月から2016年3月までに近畿大学病院で手術を施行された食道癌症例が対象です。
本研究の意義・目的
胸部食道癌に対する根治手術において胸部食道は周囲のリンパ節を含む脂肪組織ごと一塊に切除して摘出されます。つまり、切除後は一旦頸部食道と腹部の胃に泣き別れになった状態になります。この空間的な欠損を腹部の臓器、通常は胃を使って細い管:胃管を作成して頸部まで挙上し、頸部食道と吻合を行います。したがって同じ腹腔内にある消化管を吻合する腹部手術とは大きく異なり、距離的なハンディを克服する必要があります。全国がんデータベース(NCD)でも吻合部が破綻する縫合不全率は13%強と報告されており、この対策が重要な課題です。消化管を吻合する場合の治癒のポイントは、再建に用いる臓器の血流と吻合部への緊張の程度です。血流が良好で、吻合部にも緊張がかかっていなければ良好な治癒が期待できますが、そのいずれかが欠けると吻合が破綻する縫合不全を発症する率が高くなります。つまり、食道の再建においては胃を使って如何に長い胃管を作成するかが一つのポイントです。挙上する胃管は腹部からの血管のみでその先端まで栄養せざるを得ません。したがって、長い胃管を作ることができればより肛門側で血流の良い場所で吻合することができますし、長さに余裕があれば吻合部にかかる緊張も緩和して治癒を促進させることができます。もう一つのポイントは、限られた長さを有効に使うためにできるだけ短い経路で挙上することです。胃管を挙上する経路には3つの経路があります。元々食道があった場所を挙上する後縦隔経路、胸骨の裏側に新たなトンネルを作成して挙上する胸骨後経路、そして胸壁の正中皮下にトンネルを作成して挙上する皮下経路です。それぞれに利点・欠点はありますが、縫合不全に関していうと最短距離の経路で挙上するのが最も有利で、縫合不全率が低くなると予想されます。一般常識として後縦隔経路が最も短いといわれていますが正確なデータはありません。ご遺体で測定した、あるいは術中に測定したという報告が僅かにありますが一定の見解はなく、胸骨後経路の方が短いという報告もあります。そこで再建経路長を明らかにすることで距離的な面での最適の再建経路を確立し、食道切除後の胃管再建術の標準化を図ることができればと考えています。これにより縫合不全率が低下すれば、患者さんの安全性および術後の負担は大きく改善され、医師および看護師の負担も軽減され、更には在院日数の短縮や処置に要する物品の削減など医療経済的にも大きな利点があると考えられます。実際我々は今回研究対象となる2012年11月から2016年3月までの間、術中に3つの経路長を測定し、最短の経路を用いて再建することで手術の安全性の向上を図る戦略をとってきました。その時の結果は一般的な常識とは異なり、圧倒的に多くの症例で最短の再建経路は後縦隔経路ではなく、胸骨後経路であるという結果でした。我々はこの結果とその他の術式の工夫を追加することにより縫合不全率は1%台までに改善することができています。しかし、前述の通り未だ世の中では縫合不全は大きな合併症の一つで、高い施設では20%を越える縫合不全率の報告もあります。広く全国、そして世界に正確な情報を提供し、患者さんの安全性を確保することは最重要課題であり、その社会的意義は極めて大きいと考えますので、今回改めて過去のデータを整理し、世の中に報告する予定です。
研究方法
術中に再建経路長を測定し、最短の経路を再建経路として選択するという手術選択を行っていた2012年11月から2016年3月までの間に近畿大学病院で手術を施行された食道癌症例を対象とします。新たに取得するデータは一切なく、全て電子カルテ内の診療録および手術記録、それと上部消化管外科の食道癌データベース内にあるデータを利用するのみで、収集された情報を基にデータベースを作成して集計を行い評価します。情報の解析は、後述する研究代表者と研究分担者のみが行なうもので、それ以外が情報の解析に関与することはありません。研究実施予定期間は、近畿大学医学部倫理委員会で承認された後2年間です。
研究に用いる情報の種類
- 診療録から抽出される項目
- 年齢、性別、身長・体重、各再建経路長、検査データ、画像データ、病理データ、既往症、併存疾患、食道癌の状態(主腫瘍の局在部位、リンパ節転移の部位および転移個数に関する初診時の臨床評価情報ならびに術後病理所見情報、臨床的および病理学的進行度)、治療内容(術前化学療法、術前または根治的化学放射線療法の内容および手術術式)、術後合併症とそれに対する治療に関する情報。
- 手術記録から抽出される情報
- 術式、再建経路、手術時腫瘍進行度、切除度、吻合法、手術所見。
- 上部消化管食道癌データベースから抽出される情報
- 各再建経路長、術後合併症の有無・種類。
個人情報の取り扱いについて
個人情報に関わるデータ(名前・生年月日・ID番号)はすべて匿名化され、いかなる個人情報も院外には漏出されないように管理します。プライバシーに関することが公表されることは一切ありません。また、この研究は近畿大学医学部倫理委員会の審査・承認ならびに近畿大学医学部長の許可を得て行なう近畿大学医学部外科学教室の単独研究であり、情報は近畿大学医学部以外に提供されません。
情報の管理責任者
竹山宜典 近畿大学医学部外科学教室肝胆膵部門 主任教授
ご質問や研究に対する拒否の自由
本研究に関しましてお聞きになりたいことがありましたらいつでも担当医もしくは下記問い合わせ先までご連絡ください。また、本研究に情報を提供したくない場合はお申し出ください。お申し出いただいても今後の診療等に影響はありません。ただし、既に論文発表や学会発表にて公表されたデータとなっている場合には撤回はできません。
ご希望があれば、他の研究対象者の個人情報及び知的財産の保護に支障がない範囲内で、研究計画書及び関連資料を閲覧することが出来ますのでお申し出ください。また、また情報が本研究に用いられることについてご了承いただけない場合は、研究対象としませんので、下記問い合わせ先までお申し出ください。
研究代表者・責任者及びお問い合わせ先
- 研究代表者および責任者
- 安田卓司 近畿大学医学部外科学教室上部消化管部門 主任教授
- 研究事務局(お問い合わせ先)
- 安田卓司 近畿大学医学部外科学教室上部消化管部門 主任教授
〒589-8511 大阪府大阪狭山市大野東377-2 近畿大学医学部外科学教室
TEL: 072-366-0221 / Fax: 072-367-7771
研究分担者
白石 治 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:医学部講師
加藤寛章 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:医学部講師
百瀬洸太 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:助教
平木洋子 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:助教
安田 篤 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:医学部講師
新海政幸 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:講師
木村 豊 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:准教授
今野元博 所属:附属病院通院治療センター 職名:教授