リンパ節転移陽性食道癌(術前治療あり)に対する腫瘍特異的ペプチドワクチン術後アジュバント免疫療法 単施設探索的第Ⅱ相臨床試験 ~ 患者様の情報の研究利用についてのお知らせ~
情報公開の目的
上記課題の臨床研究は、近畿大学医学部倫理委員会にて承認を得て進めてきた臨床研究です。現在は2015年4月に最終登録した症例の癌ワクチン投与が終了して3年間の経過観察が終わりましたので、最終解析を行なっているところです。本研究は癌ワクチンの有用性と安全性を確認して、新規薬剤の創薬につなげるのが目的です。既に本研究の中間解析で癌ワクチンの有用性が示唆されたことを受けて、企業主導の第III相臨床治験が行なわれ、本年登録を終了したところです。さて、本研究を終了するにあたり改めて研究結果を踏まえて全体を眺めた際に、臨床治験の結果を新薬として承認につなげていくには、本試験においてもっと個別にその有用性を評価・検証し、その有用性を明確に示しておく必要性が生じてきました。そこで、今回以下に示すような検討を追加して行なうこととなり、本試験にご参加頂きました患者さんにお知らせする次第です。これから行なう検討は、統計解析手法の追加と手術で摘出した標本の残りを用いた解析で、特に皆様に改めてご協力をお願いするものではありません。もし、追加での検討を希望されないという患者さんがおられましたら、最後に記載しています主任研究者までご連絡頂ければ、検討対象から除外して解析させて頂きます。以上を踏まえて、以下ご一読頂きご判断頂ければと思います。
研究の対象
2009年12月から2014年9月までに近畿大学医学部附属病院で進行食道癌に対して術前治療の後に根治切除を行ない、術後の病理学的検索でリンパ節転移が陽性であった患者さんが対象です。
本研究の意義・目的
本研究は使用できる薬剤の少ない食道扁平上皮癌に対する癌ワクチンの開発において、基礎研究における発見を創薬につなげるために基礎と企業主導の臨床治験との間を橋渡しするために行なわれた医師主導の臨床研究であります。したがって本研究の中間解析結果が企業を動かして臨床治験へと進んだように、本研究の最終結果が臨床治験の結果に関する国の評価に大きく影響を与え、実際の薬事承認を左右する可能性が十分あります。故に本研究で明確な有効性を示すことができれば、日本初の癌ワクチン薬の承認に向けて大きく前進することができ、進行食道癌の患者さんの治療成績向上に大きく寄与することが期待されます。また、世界が注目する免疫治療に日本として一矢を報いることができ、日本における免疫研究の活性化にもつながり、日本における医学ならびに医療の進歩に大きく貢献するものと考えられます。その意味で本研究において解析を追加することでより明確に癌ワクチンの有効性ならびに真に有効な症例を選別する基準を確立することは、医学的にも社会的にも非常に大きな意義をもつものと考えます。
研究方法
今回追加して行なう研究は、統計解析法の追加と切除標本を用いた免疫組織学的な検討です。
<統計解析の追加>
長期にわたり患者さんの経過をみていますと食道癌は無再発に経過しているにもかかわらず、頭頸部癌を含む食道以外の癌や肺炎、あるいはアルコール依存が原因でお亡くなりになる方が少なくありません。本研究は使用した癌ワクチンが食道癌術後の食道癌による再発を抑えるのに有効か否かを検証するもので、食道癌以外の病気を評価に入れますと癌ワクチンの有効性を過小評価する結果になってしまいます。そこで、食道癌が原因でお亡くなりの患者さんのみを死亡として取り扱う統計解析を追加して癌ワクチンの有効性を検討したいと思います。本研究は最終の死因の評価方法を変更するのみで、特に新たに診療情報を利用することは伴わず、既存のデータで解析を行ないます。
<免疫学的検討の追加>
- 本研究は食道癌細胞に特異的に発現している細胞表面の抗原をターゲットにして、その情報をワクチンとして注射し、その特異抗原を有する細胞のみを攻撃する免疫細胞を多量に誘導することで癌細胞を根絶させようとするものです。今回のターゲットとした食道癌細胞特異的抗原は、URLC10、CDCA1、KOC1という名前の抗原です。いずれも新たに発見された新抗原でその有効性が期待されています。ほぼ食道扁平上皮癌であればいずれかを発現していると考えられますが、もしいずれも発現していない細胞があれば、その場合は無効ということになります。本癌ワクチンの前提は、食道癌細胞が前記のいずれかの抗原を有していることが条件ですので、切除した腫瘍の標本を用いて免疫学的に上記2種類の特異抗原の発現の有無を検討させて頂きたいと思います。おそらくは実際の癌ワクチンの有効性と関連があるのではと推測しており、癌ワクチンが有効な患者さんの選別に有用になると考えています。
- ワクチンとして投与された情報は、免疫細胞の中でも抗原提示細胞の一つである樹上細胞上にあるMHC class Iという分子を介して情報が免疫系に伝達されます。しかし、稀にこのMHC class Iという分子がないものがあり、その場合は有効情報は伝達されず、それ故にワクチンは機能しません。そこで、腫瘍周囲の細胞におけるMHC class Iの発現の有無を免疫学的に評価する予定です。
- 癌ワクチンの有効性は、術前治療によって遺残した癌細胞周囲の環境、つまり癌細胞を攻撃する免疫細胞(CD8+ T細胞)の数や癌細胞自身が免疫の攻撃から逃れるために発現する免疫細胞を無能化させるPD-L1という分子の発現程度が大きく影響します。そこでこのCD8+ T細胞とPD-L1発現癌細胞の程度を免疫学的に評価させて頂きたいと考えています。これも癌ワクチンが有効な患者さんの選別に有効になると共に、今世界でも注目されている抗PD-1抗体(オプジーボなど)との併用が効果増強に有用な可能性も明らかになるなど、本研究の追加の意義は大きいと考えています。
上記3つの免疫学的検討は、いずれも切除標本を用いて免疫学的に染色して評価する検討になります。したがって、新たに患者さんにご協力頂くことも新たに診療情報を利用することも伴わず、既存の情報と今回の解析で得られた情報のみを用いて検討を行ないます。
個人情報の取り扱いについて
個人情報に関わるデータ(お名前・生年月日・性別)はすべて匿名化され、いかなる個人情報も院外には漏出されないよう管理します。プライバシーに関することが公表されることは一切ありません。また、この研究は近畿大学医学部の倫理委員会の審査・承認を得ております。癌ワクチンの提供は、研究協力者である前東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター教授であり、現シカゴ大学医学部血液・腫瘍内科教授の中村祐輔先生に供与して頂きましたが、それ以外については近畿大学医学部での単独研究であり、情報は近畿大学医学部以外に提供されません。
ご質問や研究に対する拒否の自由
今回追加する研究に関しましてお聞きになりたいことがありましたらいつでも担当医もしくは下記問い合わせ先までご連絡ください。またこの追加する研究にご自身の情報や試料が用いられることについてご了承が頂けない場合は研究対象としませんので、下記問い合わせ先までお申し出ください。お申し出いただいても今後の診療等に影響はありません。ただし、その時点ですでに論文発表や学会発表にて公表されたデータとなっている場合には撤回はできませんのでご了承ください。
ご希望があれば、他の研究対象者の個人情報及び知的財産の保護に支障がない範囲内で、研究計画書及び関連資料を閲覧することが出来ますのでお申し出ください。
主任研究者及びお問い合わせ先
主任研究者
安田卓司 近畿大学医学部外科学教室上部消化管部門 主任教授
お問い合わせ先
安田卓司 近畿大学医学部外科学教室上部消化管部門 主任教授
〒589-8511 大阪府大阪狭山市大野東377-2 近畿大学医学部外科学教室
TEL: 072-366-0221 / Fax: 072-367-7771
研究分担者
今野元博 所属:附属病院通院治療センター 職名:教授
木村 豊 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:准教授
新海政幸 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:講師
安田 篤 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:医学部講師
白石 治 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:医学部講師
岩間 密 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:医学部講師
加藤寛章 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:医学部講師
平木洋子 所属:外科学教室上部消化管部門 職名:助教